ちよ文庫

詩、掌の小説

ぼくとマンソン .1

マンソンは芸術家だ。ぼくが絵を描いていると、マンソンも自慢の前足でまっ白の画用紙を彩っていく。

ぺた ぺた ぺた ぺた...

ひとしきり足跡をつけて、やっと満足したみたい。

「マンソン、それはなんの絵?」
「そうだな。おまえにはなんの絵に見える。」

ぼくは見たままを答えた。

「まっ赤な森みたいに見えるよ。すごくきれい。」
「イイ目だ。おまえには芸術のセンスがある。」

鼻を鳴らしたマンソンはこっちに顔を見せて話した。

「オレは火が嫌いなんだ。けれど、嫌いだから味わうように描き尽くす。なぜなら、芸術は苦しみから生まれるからだ。」

マンソンのお話はいつもよくわからない。でも、マンソンが言うならきっとそうなんだろうな。

マンソンはいつからかぼくの部屋に住み着いている、黒い毛並みがトレードマークのかっこいい猫だ。おとうさんとおかあさんと一緒に遠くへお引越しして新しくできた1番の友達。

なかよしの友達と離れ離れになっちゃって、新しい幼稚園で上手にお話できないぼくのところにマンソンはやってきた。

「ひとりが寂しいのか。」

先生に心配されちゃうからダメだけど、ほんとは泣きたいくらいに寂しかった。口を開けたらポロポロこぼれちゃいそうだから、ウンとうなずいた。

「1人でいようと2人でいようと、おまえの中に世界があればどうってことのない話だ。結局、おまえの感じ方だからな。それとも、ひとりが嫌ならオレを呼ぶといい。話し相手くらいにはなるさ。」

この日からぼくとマンソンは親友になった。どんな時でも傍にいてくれる1番のなかよし。
上手に言葉が出てこなくてお話しがヘタなぼくを急かさずに、マンソンは最後まで聞いてくれる。

それに、マンソンがしてくれる話はどれも難しいけど、マンソンの言葉はすうっとぼくに馴染んでいつの間にかぼくの一部になっている。

どんな話でも聞く度にワクワクして、夜に寝れないこともあるくらいマンソンの話は面白かった。