ちよ文庫

詩、掌の小説

ぼくとマンソン .2

幼稚園のみんなはお外で遊ぶのが好き。泥ん子になってサッカーしたり、ジャングルジムにだれが早く登れるか競走したり。

ぼくはお絵描きしたり、お花や動物の図鑑を眺めたりするのが好き。

でも、ぼくが絵を描いてると「つまんないの。」ってバカにする子がいる。マンソンならそんな酷いこと言わないのにな。

「酷いもんだな。自分が否定された訳でもあるまいに。」
「いいんだよ。ぼくにはぼくの〈セカイ〉があるから平気なんだ。」

ぼくがそう言って笑うと、マンソンは尻尾を揺らして「そうか。」とだけ答えた。
マンソンのビー玉みたいなキラキラの瞳が優しく輝いた。

ベッドに寝転んでウトウトしてると大きな声と何かが壊れるようなおとがした。・・・きっとおとうさんとおかあさんがケンカしてる。

おとうさんのお仕事のためにお引越ししてからおかあさんが不機嫌になる時がちょっぴり多くなった。

おかあさんはぼくの前だといつも笑顔だけど、たまにおとうさんとケンカしていることを知っている。そういう時は、たいていぼくがベッドで寝ている静かな夜だってことも。

リビングからはまだ怒鳴り声と物音が聞こえてくる。外はザアザア降りで雨の音に混じって聞こえてくる2人の声がまるで怪獣みたい。

横から枕で耳を塞いでも、足をバタバタさせてみても、耳にはまだ怪獣の声がこだましていて夢も見られそうにない。

おフトンを剥いで起き上がると、耳を縦向きにピンと張ったマンソンがいた。

「こうウルサイと敵わないな。」
「マンソン。いつからいたの。」
「おまえの両親が言い争いを始めた頃からかな。やかましくて仕方がない。」

ぼくはマンソンをおフトンの中に入れて、生まれる前の双子みたいに一緒にくるまってジッとしていた。ぼく達の言葉は羊水で、マンソンとお喋りしている間は何があっても絶対に大丈夫だって信じられた。

「ありがとね、マンソン。ぼく、もう怖くないよ。何があってもきっと大丈夫。きみのお陰でそんな気がするんだ。」
「おまえがそう思うならそれでいい。オレは何もしていない。」

ぼくはマンソンと朝までずっと柔らかい秘密基地にこもって、ぐっすり眠っていた。