ちよ文庫

詩、掌の小説

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「春を摘む」

高校2年の夏、俺の背中に虎が生まれてからそれまでよりずっと強くなれた。 バイトを掛け持ちして溜めた金と奨学金でなんとか家を出て大学に進み、教員免許を取得して今や母校の先生。 なんて、昔の何も出来なかった頃の自分が聞いたら嘘臭さに笑うかもしれな…

「夏が煙る」

夏休みに入る直前、小学校から続けてきたサッカーを辞めた。 学校から帰る途中。曲がり角からやってきた車に轢かれ、脚がダメになった。 周りには「来年は受験だし案外いい機会だったのかもな」なんて言っておいたものの、自分でも意外なほどに喪失感は大き…

「私自身のリアル」 朗読

「私自身のリアル」/空峯 千代 by 空峯 千代 - 音楽コラボアプリ nana 本文 「私自身のリアル」 - ちよ文庫 「話してて21歳とはとても思えない。」特に何も思わなかった。もう言われ慣れてた。 皆の中の私はやたら大きくて""強い""人間だった。自分に誇りを…

「1111」 朗読

1111 track.1/空峯 千代 by 空峯 千代 - 音楽コラボアプリ nana 本文 「1111」.1 - ちよ文庫 午前10時。朝起きてまず24時間営業しているスーパーへと足が向いた。 有線が流れる店内には、子供連れのお母さんやご近所のお年寄りがちらほら見える。私は真っ直…

「ぼくとマンソン」 朗読

[http://www..com/ぼくとマンソン track.1/空峯 千代 by 空峯 千代 - 音楽コラボアプリ nana:title] 本文 ぼくとマンソン .1 - ちよ文庫 マンソンは芸術家だ。ぼくが絵を描いていると、マンソンも自慢の前足でまっ白の画用紙を彩っていく。 ぺた ぺた ぺた …

「虎を飼う」

ユーガは汗を吸った白いシャツを脱ぎ、そのままベッドでうつ伏せになった。まるで日焼けを知らない真っ白の背中は、今から質の良いキャンバスになる。 「これから長丁場になる。楽にしてていいから。」 「ありがと。よろしく頼む。」 にこりと微笑んで昼寝で…

「ねこかぶり」

あたし猫。「ねこかぶり」だから猫。 なるほど、人ってむずかしい。いろんな人がいて、しかもいっぱいいるから、そのなかで生きていくって大変だ。だからあたしは猫をかぶる。 猫はかわいい。みんなだいすき。 みんな猫を見ると怒ってた人もふにゃりと笑って…

「おりこうさんの羽休め」 後

2人でラーメン屋に寄った次の日。 うつらうつらしながらも眠気をこらえ、1限を終えた直後のことだった。 「あ、鶉の弟の...。」 「.....................どうも。」 鶉と同じ顔をした学生が前方から歩いてきた。 鶉にはドッペルゲンガーと見まごうほど瓜二つ…

「おりこうさんの羽休め」 前

𓄿 「おまえってさ、いつ休んでんの?」 「へ?」 講義が終わりレポートを片付けて流れるように入った大学最寄りのラーメン屋。 食堂よりも圧倒的なクオリティの旨辛坦々麺を啜りながら、レンゲで熱々のスープを口に運ぶ幼なじみに聞いてみる。 「昨日は執行…