ちよ文庫

詩、掌の小説

「ショートスリープ」


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 朝6時に寝て9時ピッタリに目を覚ます。 これが彼女の習慣だった。

 目覚ましをかけているわけでもなく、身体が自然と覚醒へ向かうのだ。

 

 食事もほとんど取らず、口に入れるのは基本的に珈琲、紅茶等のカフェイン飲料でたまにスープ。時としてアルコール。

1度胃を悪くしてから固形物にどうにも弱いらしい。濃い味付けのものは特に受け付けない。

 

 運動は割とよくやる方だ。自室で腹筋だのスクワットだの、思いの外トレーニングに励んでいる。

 身体を動かすという意味では、散歩好きの彼女はよく歩く。夜に散歩へと出掛けて2,3時間ほどしてから帰ってくる。

 どうやら音楽を聴きながら歩くのがお気に入りなのだそう。

 

 俺はあまりにも不健康で生きることに不器用な彼女が心配だ。いつかどこかに消えていってしまいそうな、そんな不安が頭をよぎる。

 

  たまらずに彼女に聞いた。

 「急にどっか行ったりしないよな?」

 

 短髪を揺らしながらこちらを向く彼女はこう答えた。

 「んー。さあ?」

 

 空は雲ひとつなく風が心地良いベランダでベンチに肩を並べて座る。

 彼女はシャボン玉を吹きながら無邪気に話した。

 

 「なんとなくね、わかるの。少しずつ時間が短くなっていくのが。」

 「ずっと先に使わなきゃいけないものを今たくさん使っちゃってるの。たぶんだけどね。」

 「だから「うん」とも「ちがう」とも言えない。わかんないや。」

 

 足をブラつかせて時折サンダルが脱げる様子は幼い少女そのものだった。

 また履き直して足をブラつかせシャボン玉を吹く。

 

 俺は少し考えた。

 「大丈夫とかいい加減なこと言えないけど、少なくともおまえがいなくなったら俺は悲しい。」

 

 彼女は花が咲いたかのように笑った。

 「そっか。そう言ってくれて嬉しいな。」

 

 きっと一日中はしゃいで疲れたのだろう。彼女はベンチに身体を預け、俺の肩に頭を乗っけたまま眠りに落ちていた。

 せめて今くらいはゆっくり休んでいて欲しかった。悪い夢にうなされることが無いように彼女の頭を優しく撫でた。