ちよ文庫

詩、掌の小説

「羽根の抜ける頃に」前


f:id:chiyo-1215:20200624203927j:image

 

 

𓄿

 

 

 

「なんで自殺しちゃいけないのかな?」

 

 スマホを横向きに構えソシャゲに興じながらとんでもないことを安々と聞いてくるこの男、柿之木 鶉は小学校以来の付き合いだ。

 

 もっとも、いきなり突飛な話をしてくるから昔からサッパリ読めない。

 

 「............おまえ、何か悩みでもあるのか?俺でよかったら聞くぞ。」

 

 「ちがうちがう。心も体も健康だ。安心しろ、大往生して畳の上でこの世を去る予定だよ。」

 

 「じゃあいきなりなんだよ。朝から不謹慎な話しやがって。」

 

 「俺は大真面目で言ってんの!鷹臣もちょっとくらい考えてみろよ、なんで一般的には自殺しちゃいけないんだと思う?」

 

 試しに目の前にいる友人が自殺したと仮定して考えてみた。

 

 「俺が1人で昼飯を食べることになるな。あと代返するやつがいなくなる。」

 

  「誰に当てはめてんだよ。だからそういう事じゃなくてさ、個人単位じゃなくて世間一般に「自殺しちゃいけない」って考えられてる理由だよ。」

 

 「ふーん、また小難しいこと考えてるな。」

 

 「だってイマイチ納得できねえもん。俺が求めてる答えは「誰かが不利益を被るから」とか「周りの人が悲しむから」とか、そういう事じゃないんだよ。もっと本質的な話。」

 

 鶉は要領よく人付き合いに長けていて、教授たちからもお気に入り扱いされるほどの優等生だ。

 

 ただ一度知的好奇心が騒ぐと言い出したら自分が腑に落ちるまで言うことを聞かないところがある。今がまさにそれだ。

 

 そしてこういう時は大抵ろくでもない事を考えている。

 

 「そりゃあ俺だって幼なじみに聞いただけで納得のいくアンサーが返ってくるなんて思ってもないよ。」

 

 「贅沢言わずに納得してもらいたかったな。あと2分で講義だぞ。」

 

 「だからさ、困ってる幼なじみの為にちょっ〜とだけ頼まれてくれないかな?」

 

 

  .................ほら、始まった。

 

  どうやら長年で培った勘は外れてくれなかったみたいだ。俺はひとまず90分の面白くもないトークショーを聞くためにノートを開いた。

 

 

 

𓅪

 

 

 

 首尾は上々だ。

 

 鷹臣は面倒くさがりだがいざという時はノリのいいやつだから嫌いじゃない。なんやかんやで今回も引き受けてくれた。

 

 あとは時間を待つだけだ。

 

 現在は21時45分。あともう少しで..........。

 

 すると、鉄扉が勢いよく開けられる音が聞こえた。コンクリートに響く足音は2人分だった。

 

 「柿之木 鶉くんだね?」

 

 「................はい。」

 

 「無事でよかった......................お友達から通報が入って君をずっと探してたんだ。とりあえず移動しようか。」

 

 俺は2人のお巡りさんに挟まれて大人しくパトカーに乗せられた。