ちよ文庫

詩、掌の小説

「1111」.1

午前10時。朝起きてまず24時間営業しているスーパーへと足が向いた。

有線が流れる店内には、子供連れのお母さんやご近所のお年寄りがちらほら見える。私は真っ直ぐに鮮魚コーナーへと足を運んだ。

白の作業服に身を包んだ顔の見えない店員さんは、私に気づくと声を掛けてくれた。

「あ、どうも。こんにちは。今日はお1人なんですか?」

「ええ、ちょっと買い物したくなって寄ってみたんですよ。」

「てっきりハジメくんが今日休みだから2人で出かけてるのかと...。これは失礼しました。」

「いえ、お仕事頑張ってください。」

私は店員さんと別れてから何も買わないままに店を出た。

地元の駅から電車に乗り、少しばかりウトウトする。睡魔に負けてしまわぬ前に目的の駅へたどり着いて安堵した。

街中は春休みの学生で溢れていて、10代の男の子と女の子が腕を組んで歩いている。

観光客だろうか。大きなリュックを背負った彫りの深い外国の男性が駅員に道を尋ねている声が聞こえた。

商店街まで出るとこじんまりとした食堂が見えてくる。私は店に入り、穏やかそうなご夫婦に玉子丼となめこの味噌汁を注文してカウンターへ座った。

入れてもらった煎茶を飲みながらぼうっとしていると、半熟の玉子丼と湯気が立った味噌汁、豆皿に乗せられた白菜の漬け物がいつの間にか目の前にあった。

昨晩から何も食べていなかった私は、玉子丼を頬張り味噌汁を1口飲んだ。嫌味のない優しい味が広がり、空の胃袋を温めてくれる。

「今日は暖かいですね。日中暖かければ好ましいのですが、夜は肌寒くてねえ。」

奥さんの世間話に頷きながら少しずつ胃を満たしていった。箸を置いて「ごちそうさま」を手で作り、お勘定をお願いする。

「530円です。」

お金を払い終えると旦那さんから「今日はハジメくんは。」と聞かれ、「仕事みたいですから。」と答えておいた。

ご夫婦に「ごちそうさまでした。」をきちんと伝えてから店を出た。