ちよ文庫

詩、掌の小説

「雨傘」

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雨は好き。だって、雨は美しい。


雨音を聞きながら本を読む時間を私は幸福だと思う。雨の日に音楽を聴くと、一層感傷的に響くから。音に溶け込めるようで普段より好き。


それに、心を洗い流してくれる。慈しむような優しさがある。だから私は雨が好き。


傘は嫌い。だって、傘は煩わしい。


お出掛けする時に持っていないといけないし、忘れちゃって取りに戻る時間はムダ。お友達と話したいのに、傘がぶつかっちゃうから距離を空けると声が聞こえない。


それに、片手が塞がっちゃうから好きな人と手を繋ぐこともムズカシイ。だから私は傘が嫌い。



...............最近ほんの少しだけ傘が好き。

「傘を差すくらいなら濡れて帰る」って言った私に「じゃあ、一緒に入ろ?」って彼が返してくれたから。


お互いに端っこが濡れながら私たちはぴったりくっ付いて離れなかった。



前に本で読んだことがある。たしか「三角関係」だっけ。3つの関係はプラスとマイナスの掛け算になる。


「傘」が嫌い。だから-。私と傘の関係は-。



でも、私は彼が好き。だから+。彼は傘を持っているから関係において+。
+ × + は+。だから私と傘は+になる。



彼がいればなんでも+になる気がするなあ。


そんなことを考えながら水溜まりを踏む私を彼が心配するのは数秒後の話。