ちよ文庫

詩、掌の小説

「ねこかぶり」


f:id:chiyo-1215:20200716162335j:image

 

 あたし猫。「ねこかぶり」だから猫。

 なるほど、人ってむずかしい。いろんな人がいて、しかもいっぱいいるから、そのなかで生きていくって大変だ。だからあたしは猫をかぶる。

 

 猫はかわいい。みんなだいすき。

 みんな猫を見ると怒ってた人もふにゃりと笑ってサカナの缶詰めくれるんだ。

 あたしも猫になれば、みんなあたしを見るとふにゃりと笑ってくれないかしら、と思ってとびっきりの猫をかぶる。

 

 ほうら、やっぱり。みんな猫がすきなんだ。

 あたしが猫をかぶると、いろんな人が寄ってくる。

 お菓子をくれるし、頭をやさしく撫でてくれるし、「だいすき!」って言ってくれるんだ。猫様々なんだ。

 

 あれ、おかしい。上手に猫になれなくなった。

 あんなに上手く猫だったのに、いつの間にか猫になるのが下手になってる。

 みんな「かわいい」「かわいい」って言ってくれたのに、どんどん人がいなくなる。ひょっとして、あたしひとりぼっち?

 

 あたしは猫。じゃない。「ねこかぶり」はもうおしまい。

 猫でもなんでもない、名前のないなにかになって、サラサラ空へと昇ってく。

 不思議と淋しくないし、ずっと楽に息できるから。あたし、猫じゃなくても大丈夫。